研究概要 |
1.中国の野生種および品種を主とした計64種239品種のバラについて、GCMSを用い、ヘッドスペースGC分析法で香気成分を分析した。その結果、中国西南部を自生とする野生種、Rosa chinensis var.spontaneaは供試材料中、中国系バラの指標香気成分の一つ、トリメトキシベンゼン(1,3,5-trimethoxybenzene)(TMB)を最も多く発散し、中国系バラの基本種であることが確認された。中国バラに由来するティーおよびチャイナ系品種のほとんどが、祖先種であるRosa chinensis var.spontaneaとR.giganteaに、その指標成分、TMBおよびジメトキシメチルベンゼン(1,3-dimethoxy-5-methylbenzene)(DMMB)を介し、系統的なつながりをもつことが確認された。しかし、中国系品種のなかにも、これらの指標成分が確認されないものがあり、その品種の来歴に疑問がもたれた。 2.供試した中国の古い栽培バラで、既存のティーおよびチャイナ系品種でみられない香気成分構成をもつ品種が発見された。これらには、TMBとDMMBをほぼ均等にバランスよく発散する品種、TMBまたはDMMBを多量に発散する品種、イオノン系成分(dihydro-β-ionone)を多量に発散する品種などがあり、今後の新たな芳香バラ品種育成の貴重な遺伝資源となると思われた。 3.Rosa chinensis var.spontaneaの花弁から3種のO-メチルトランスフェラーゼが単離され、そのうちの一つは、TMBの生合成経路の推定される中間産物、3,5-dihydroxyanisoleと基質特異性が高いことが示された。 4.Rosa chinensis var.spontaneaの花弁から、TMBの生合成に関わるメチル基転移酵素の一つである、フロログルシノルO-メチルトランスフェラーゼ(POMT)を抽出、精製した。この精製したPOMTをもとに遺伝子をクローニングし、大腸菌で酵素を発現させ、活性を確認した。本酵素は特に花器官で発現し、バラ芳香物質の合成に関わる重要な酵素として働いていることが分かった。
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