研究概要 |
植物キチナーゼは植物の病気抵抗性レスポンスにおいて重要な役割を持つと推測されている。本研究の目的は,成熟期のブドウ果実に発現するキチナーゼを分離・精製し,酵素学的性質そして植物病原菌に対する抗菌作用を検討し,病気抵抗性レスポンスにおけるキチナーゼの役割を明らかにすることである。 平成15年度は,次の2つ研究成果を得た。1.成熟期ブドウ果実に発現するキチナーゼの品種間比較:平成14年度にマスカット・ベリーAの成熟果実の果皮より二つのキチナーゼ画分(ピークIとII)を得た。平成15年度は,耐病性の異なる4品種のブドウ(マスカット・ベリーA,甲州,カベルネ・ソービニヨン,シャルドネ)果実にキチナーゼのピークIとIIが存在するか否かを検討した。その結果,マスカット・ベリーA,甲州,カベルネ・ソービニヨンにはピークIとII,そしてシャルドネにはピークIのみが存在することが明らかになった。植物病原性糸状菌に対する耐病性の低いシャルドネ果実は,キチナーゼ活性が低く,その種類も少なかった。ペーパーディスクを用いたブドウ灰色カビ病菌(Botrytis cinerea)に対する抗菌性試験において,ピークIとIIともに抗菌性を示した。これらの結果は,成熟期のブドウ果皮に発現するキチナーゼがブドウ果実の病気抵抗性に寄与する重要な酵素であることを示唆している。2.成熟期ブドウ果実に発現するキチナーゼの構造と性質:マスカット・ベリーAのピークIは4種類のキチナーゼアイソザイム(Ia, Ib, Ic, Id)を含むことがPAGE分析により確認された。Mono Pカラムを用いたクロマトフォーカシングによりこの4種類のキチナーゼアイソザイムを分離・精製し,そのN末端アミノ酸配列を解析したところ,すべてのアイソザイムでクラスIVキチナーゼのN末端アミノ酸配列と高い相同性が見られた。
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