エチレンはガス状の植物ホルモンであり、高等植物の一生を通じて様々な成長段階で重要な働きをしているが、とりわけ果実の成熟や野菜・花卉の老化など、園芸作物に与える影響は極めて大きく、エチレンの作用を人為的に制御することは、園芸分野において重要な課題である。エチレン生合成経路においてACC合成酵素は律速段階を触媒する酵素であり、エチレン生合成の中で、最も重要な酵素である、この酵素の調節は主に転写段階で制御されていると考えられてきたが、我々はACC合成酵素がリン酸化されることを初めて示し、そのリン酸化部位を明らかにした。このリン酸化による制御機構は、細胞内のACC合成酵素の量を調節するものであると推測しており、その分子機構を明らかにする。そこでリン酸化による翻訳後制御機構を解明するために、ACC合成酵素LE-ACS2をリン酸化するprotein kinaseの同定を試みた。まず傷害処理をしたトマト果実からcDNAライブラリーをZAP IIファージベクターで作製した。次にLE-ACS2が発現するように形質転換した大腸菌BL21に、このファージーライブラリーを感染させた。IPTGでcDNAとLE-ACS2を共発現させ、LE-ACS2のSer460リン酸化部位を認識する特異抗体を用いて、LE-ACS2をリン酸化するprotein kinaseをスクリーニングした。その結果、あるCDPKがクローニングされた。このCDPKはエリシターやosmotic stressにより発現が誘導されるタバコのNtCDPK2とよく類似しており、LE-ACS2以外のACC合成酵素アイソザイムもリン酸化することができることが明らかになった。
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