オオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis)の分生子をオオムギ表皮に接種するとやがて発芽し、感染に必要な付着器を形成する。宿主であるオオムギ、非宿主であるキャベツ、タバコ、トマトの表皮系を用いてそれぞれにおける付着器形成率を調べたところ、宿主であるオオムギ葉の表皮系において最も形成率が高かった。その傾向は、表皮系から抽出したワックス処理基質上においても同様であった。そこでオオムギの表皮系のクロロフォルム抽出画分を薄層クロマトグラフィーならびにIRスペクトルで分析した結果、アルデヒド画分に高い形態形成誘導活性が存在することが解った。本菌の非宿主である植物の表皮系のワックスにはキャベツを除いてアルデヒドの量が少なく、このことが付着器形成率の低さに反映されているものと思われた。しかし、非宿主のキャベツのアルデヒド量は宿主であるオオムギよりもかなり多く、アルデヒドの量の違いのみが、本菌の付着器形成率の決定に関与しているとは言い難い。そこでガスクロマトグラフィーを用いて、オオムギならびにキャベツのアルデヒドを構成する炭素数を調べたところ、オオムギのアルデヒドは主に炭素数が26であったのに対し、キャベツのそれは30であった。炭素数26ならびに30のアルデヒドは市販されていないので、26と30の炭素数からなるアルコールを購入し、化学的に26と30からなるアルデヒドを合成し、それぞれの本菌に対する付着器誘導活性を調べた。その結果、炭素数26のアルデヒドが最も高い誘導活性を有していることが判明した。 以上より、本菌の侵入前の形態形成、とくに付着器形成能は、宿主植物と非宿主植物との間で大きく異なり、それぞれの表皮系に存在する化学的要因によって大きく制御されていることが明らかとなった。
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