研究概要 |
オオムギうどんこ病菌をオオムギに接種すると、始めに第一発芽管(Primary Germ Tube : PGT)と呼ばれる短い発芽管が出現する。このPGTの役割は、周りが乾燥状態にあるときに宿主細胞に侵入し水分を吸収したり、宿主表面に接触することでその後の付着器発芽管(Appresorial Germ Tube : AGT)の出現の引き金となるなどの報告がある。しかしながら本菌の感染過程、とくに宿主特異性決定に関するPGTの役割についてはまったくわかっていない。PGTはムギ類に感染するうどんこ病菌に特徴的な構造で、双子葉植物に感染するうどんこ病菌には認められず、ムギ類との共進化や宿主特異性を考えていく上で極めて興味のある構造である。そこで今年度は本菌の感染過程におけるPGTの役割について詳しく検討を加えた。最初に、本菌のAGT出現に対するPGTの宿主表面への接着の必要性を検討した。その結果、オオムギの子葉鞘表面を酢酸セルロースで処理しクチクラを除去すると,PGTの伸長が停止しにくくなり、その間はAGTの出現が認められない傾向にあることが明らかとなった。さらに、PGTの伸長停止とAGTの出現の関係について、とくにAGTが出現する時点でPGTの伸長が実際に停止しているか否かについてさらに詳しく検討した。その結果,AGTが出現したあとではPGTの伸長は認められず、このことからAGTの出現はPGTの伸長停止後に起こることが明らかとなった。これらのことから、PGTは実際の感染には関わっていないというこれまでの定説を覆し、PGTが宿主表面に接着しその伸長を停止すること、このステップを経なければ本菌はその後の宿主侵入のステップには至らないことが明らかとなった。
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