研究概要 |
本研究は、チャハマキで発見された性比異常現象の生態学的特性を明らかにし、性比異常を引き起こす要因を解明することを目的として行われた。 性比異常形質の遺伝様式を調査した結果、性比異常の形質はメスを通じて伝達され、交配を数世代繰り返した場合においても消失することはなかった。しかし、その垂直伝播率は、交配した組み合わせにより異なることが明らかとなった。これらのことから、性比異常の形質を引き起こしている原因は、核内の遺伝因子ではなく細胞質内にある因子が原因であることが明らかとなった。 チャハマキにmale-killingを引き起こし、性比をメスに偏らせる因子(以下、MK因子)の探索を行い、精製を試みた。まず、これまでに報告されている性比異常現象の原因細菌に性比異常系統(以下、MK系統)のチャハマキが感染しているかどうかを調査した。その結果、MK系統はプロテオバクテリア類のαサブグループに属するWolbachiaに感染していることが確認された。Wolbachiaが本現象の原因であるかを解明するため、抗生物質投与によりWolbachiaに感染していないMK系統を作出した結果、得られた系統においてもmale-killingが認められたことから、WolbachiaはチャハマキのMK因子ではないことが明らかとなった。さらに、様々な抗生物質を投与して、その後の世代の性比を調査したところ、性比は雌に偏ったままであった。次に、MK系統のメス成虫卵巣磨砕液の遠心分離操作およびフィルタレーション操作によって、MK因子の単離を試みた結果、MK因子は0.45μmのフィルターを通過し、100,000gの遠心により沈殿することが明らかとなった。このことから、MK因子はウイルス様の粒子が関与していることが推察された。そこで、MK系統を大量に増やし、メス成虫の卵巣を材料にして、密度遠心勾配法で因子の精製を試みているが、現在のところ、単一のウイルス粒子の発見には至ってない。
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