研究概要 |
本研究は、チャハマキで発見された性比異常現象の生態学的特性を明らかにし、性比異常を引き起こす要因を解明することを目的として行われた。 チャハマキにmale-killingを引き起こし、性比をメスに偏らせる因子(以下、MK因子)の探索を行い、精製を試みた。まず、MK系統のメス成虫卵巣磨砕液の遠心分離操作およびフィルタレーション操作によって、MK因子の単離を試みた結果、MK因子は0.45μmのフィルターを通過し、100,000gの遠心により沈殿することが明らかとなった。このことから、MK因子はウイルス様の粒子が関与していることが推察された。そこで、性比異常系統のチャハマキのメス成虫腹部の超遠心沈澱画分を10〜40%(W/V)ショ糖密度勾配遠心分離に供試したところ、明瞭な1本のバンドが得られた。このバンドを回収したショ糖密度勾配バンド画分を電顕で観察したところ、約10〜20nmの粒子が観察された。一方、正常系統のメス成虫腹部の場合には、ショ糖密度勾配遠心分離によるバンドは得られなかった。得られたバンド画分について、オス殺しをひき起こす活性を有するか否かを調べるため正常系統の幼虫に注射接種を行ったところ、次世代の性比が著しく雌に偏った。 ショ糖バンド画分に存在する核酸を調べるため、複数の方法を用いて、核酸を抽出し、電気泳動を行った。その結果、この画分には、DNAは存在しないこと、約1500bpのRNAが存在することが明らかとなった。オス殺し因子の活性が加熱およびUV照射によりどのように変化するかについて検討を行った。その結果、ショ糖バンド画分を加熱処理すると、次世代で性比異常を示す卵塊は一つも得られなかった。よって、100℃で10分間、加熱することにより、因子の活性は失われることが明らかとなった。一方、UV照射を行った場合、2種類の照射条件共に、次世代に性比異常を示す卵塊が得られたことから、因子の活性はUVに対して耐性を持つと考えられた。
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