研究概要 |
害虫個体群が度重なる殺虫剤の淘汰を受けると抵抗性が発達する.一方,抵抗性が発達した害虫個体群の淘汰を止めると,数世代後に感受性の回復がみられる例が多い.コナガの合成ピレスロイド抵抗性もその例である.これは,抵抗性の発達に伴って何らかの生活史形質の低下が生じているためと思われるが,どのような機構で生活史形質の低下が起っているのかは余り研究されていない. 今年度の研究で,コナガに合成ピレスロイド,フェンバレレートを亜致死薬量で処理(殺虫剤淘汰と同義)すると,雌成虫の産卵数が増加することが分かった(生理的誘導多発生と言う).ところが,多産された卵のサイズは小型化することも明らかにされた.小卵化は生活史形質の劣化と見なせる.この小卵と,無処理雌の産んだ正常サイズの卵を異なる湿度下でふ化させると,30%以下の強乾燥下で孵化率が有意に低下した.つぎに,小卵と正常卵からふ化した幼虫を異なった温度下で飼育すると25℃以上の高温下で発育が遅延し,生存率も有意に低下した.以上の結果は,コナガがフェンバレレートの淘汰を受けると卵サイズや未成熟ステージの生存力に関して劣化する可能性があることを示している.来年度は,コナガに殺虫剤淘汰を数世代かけて,感受性の低下と共に,卵サイズなどを生活史形質の劣化が生じるかを実験的に確かめる.
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