本年はOTR遺伝子欠損雄マウス(otr-/-)の行動解析を2方法により行った。まずIsolation Testと呼ばれる、テリトリー意識を持たせたマウスの侵入者への攻撃性を見るテストであるが、個飼い(一匹で飼う:テリトリーを作り他個体の雄マウスに対する攻撃性が高まる)した雄マウス(resident)のケージに、群飼い(集団で飼う:攻撃性が抑制される)した雄マウスを5分間投入し、この間の観察により攻撃回数と積算攻撃時間を測定し、野生型マウスのそれと比較した。この結果、OTR遺伝子欠損雄マウスでは有意に攻撃性向上を示す結果が得られた。一方、生後25日程度の雌未成熟幼若マウスをOTR遺伝子欠損雄成熟マウスのケージに1晩入れ、翌朝マウスを分離し交尾の有無を調べる観察を1週間続ける実験を行った。この結果コントロールの野生型マウスでは10%前後の頻度でしか交尾行動が認められなかったが、OTR遺伝子欠損雄マウスでは80%前後の頻度で幼若マウスとの交尾行動が確認された。これは何らかの社会行動制御の異常を示していると思われ、共同研究者のLarry Young(米国ジョージア州Emory大)が確認した社会的健忘症(個体識別能の欠損)と合わせ、otr遺伝子が動物の個体認識や社会行動の制御に於ける重要な役割を担っていることを強く示したものと考えている。一方、これと平行してOTR遺伝子欠損雄マウスの体重の継時的な測定を行った。この結果雌雄otr遺伝子欠損マウスにおいては15週齢頃から明らかな肥満の傾向が認められ、これらのマウスでの摂食量自体の増加が確認された。体重の継時的な測定と変異マウスの白色脂肪細胞組織・褐色脂肪細胞組織での遺伝子発現変化の分析、及び血中成分の生化学的分析等によりこのotr遺伝子欠損マウスでの体重増加が誘導されたメカニズム解明のための実験を引き続き行っている。
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