研究概要 |
我々は現在までにオキシトシン(OXT)およびその受容体であるオキシトシン受容体(OXTR)遺伝子欠損マウスの作製に世界に先駆けて成功した。申請者は本科学研究費補助金基盤(B)(平成14-16年度)により、オキシトシン受容体(OXTR)遺伝子欠損マウスの総合的な解析を行い、その結果、オキシトシン受容体の持つ個体レベルでの機能解析について以下のような結果を得た。 ! 生殖関連機能に関して:OXT遺伝子欠損マウスの分娩に関しては殆ど障害無く出産に至ることを明らかとした。その理由としてOXTRにAVP(バソプレッシン)が結合し、子宮収縮を起こすことを予想し、薬理学的手法により解析した結果、マウスではOXTRに対しOXT以外にもAVPが結合し収縮を誘導させることをin vitro実験により世界で始めて示した(Kawamata, M. et al., Eur J.Pharmacol.472:229(2003) ; Kawamata, M. et al., BBRC, 321 695, (2004))。しかし、OXTR遺伝子欠損マウスにおいても問題なく分娩に至ることが我々の遺伝子欠損マウスにより証明され、少なくともマウスにおいてはOXT/OXTR系が無くとも正常な分娩の行えることが明らかとなった。乳汁分泌についてはOXT/OXTR系が必須である事も証明した。"生殖・社会行動に関して:OXT遺伝子欠損マウスと同様social amnesia様の症状がみられるほか、雌においての保育障害(nurturing behavior障害)、親から離した際の新生児の超音波音声発声頻度の低下(Ultrasonnic vocalizationsの減少)、新生児マウスの行動量の増大(多動)など、多くの行動異常が観察された。これらについてはヒト精神疾患の自閉症でみられる症状に類似しており、近年、自閉症発症とオキシトシン、又はバソプレッシンとの関連を示す報告が相次いでいることからも、患者家族にとっては深刻なこの精神疾患の解明の一助となることを期して研究を進めている(Nature Genet.投稿中)。#OXTR遺伝子が関わるその他の機能について:予想を超えたOXTR遺伝子欠損マウスの表現型として、後10〜15週齢ころから顕著になるoxtr-/-マウス特有の肥満現象と寒冷暴露時の急速な体温低下など、本遺伝子が個体レベルでのエネルギー代謝制御を行っていることを示唆する興味深い結果を得た。
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