研究概要 |
アブシシン酸(ABA)の生合成経路は、植物ではカロテノイドを経る間接経路であることが判明している。糸状菌ではファルネシル二リン酸を経由する直接経路とされているが、不明な点が多い。本研究は糸状菌のABA生合成経路を明らかにすることを目的とした。 Botryris cineraを^<18>O_2下で培養したところ、ABAの1,1,1'位が標識された。4'位は水由来の酸素と置換した可能性が高かった。この結果は、間接経路だけでなく直接経路から予想されるものとも異なっていた。また、本菌はカロテノイドをほとんどつくらず、2E-farnesa-2,4,6,10-tetraeneとその2Z異性体をつくることも判った。Cercospora cruentaでは、ABAの全ての酸素が^<18>Oで標識された。本菌も、前駆体に相当するカロテノイドをつくらないかわりに、2E-farnesa-2,4,6,10-tetraeneと2Z-γ-ionylideneethaneをつくっていた。以上のことから、糸状菌ではイオニリデンエタンを経る新たな直接経路でABAを生合成する可能性が示唆された。 B.cineraから高分子ゲノムDNA調製を行い、これを鋳型にしてゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素遺伝子断片をPCRにて増幅した。これにより、ライブラリ作成のためのゲノムDNAの有用性が確認できた。サブトラクション法によるABA生合成酵素遺伝子スクリーニングのために、暗黒下と青色光照射下におけるABA生産量を調べたが、両条件で生産量に差はなかった。テルペノイド環化酵素阻害剤AMO-1618は、培養5日でABAの産生を約75%阻害した。同阻害剤によって蓄積している可能性のある前駆体テルペノイドを明らかにし、酵素反応の基質に利用して生合成酵素遺伝子を同定すれば、新しい直接経路の検証につながると考えられる。
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