本研究は、アブラナ科植物の自家不和合性の自他識別反応に関わる花粉測SP11リガンドと雌ずい側SRK受容体複合体の解析を通じ、本反応の蛋白質構造化学的解明を目指したものである。主な成果は以下の通り。 1.SP11蛋白質の立体構造の解明 S_8遺伝子由来のSP11を化学合成により大量に調製し、NMRを用いて溶液状態における立体構造を解析した。その結果、1本のαヘリックスと3本のβストランドから成る特徴的なβαββ構造を有することが明らかとなった。この構造は、S-S結合の位置等は異なるものの、全体的には植物ディフェンシン類と類似していることが示唆された。また、他のS遺伝子由来のSP11配列をこの構造上に重ね合わせ比較解析したところ、αヘリックスと2番目のβシート構造の間のループ領域が分子表面上に露出した超可変領域を形成する可能性が示唆され、この部分がS遺伝子特異性を担う領域の一つであると予想された。 2.受容体複合体構成蛋白質の新候補MLPKの発見 自家和合牲変異株の原因遺伝子のポジショナルクローニングにより、MLPKと名付けた膜結合型の新規蛋白質キナーゼを発見した。変異株においては、MLPKは塩基の非同義置換によりキナーゼ活性を失っていること、野生型のMLPKを導入すると自家不和合性を回復することが示され、MLPKが自己花粉の情報を正に伝達する鍵分子であることが明らかとなった。また、MLPKはN末端にミリストイル化モチーフを有し、細胞膜に局在していることが示され、SRKの近傍において、恐らく受容体複合体の一つの構成成分として機能している可能性が示唆された。今後、この可能性を含めMLPKの機能をさらに追求していく必要がある。
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