動脈硬化症等の生活習慣病予防の一策として、小腸における脂質吸収を低下させ、脂質代謝を改善する試みが考えられる。小腸における脂質の吸収機構の実体は明らかでないが、近年、吸収とは逆向きの排出活性を担うトランスポーターが小腸上皮に同定され、取り込み・排出の差し引きとして吸収を捉える必要が生じてきた。また、胆汁酸の再吸収をになう胆汁酸トランスポーターによる吸収を低下させることにより、胆汁酸が効率よく糞便中に排泄されることにより、脂質代謝の改善されることも期待される。本研究では、このような小腸における脂質の排出/吸収の分子基盤を明らかにするために、コレステロール排出トランスポーターと胆汁酸トランスポーターに着目し、培養細胞を用いた機能解析を試みた。 (1)ヒト小腸上皮様細胞Caco-2を用いたコレステロール排出活性評価実験 Caco-2細胞での粘膜側へのコレステロール排出にはABCトランスポーターファミリーのAGCG5/G8の関与が想定され、これらの発現をLXRアゴニストを用いて上昇させ、排出活性を解析した。その結果、ABCG5/G8の発現上昇に伴い、粘膜側へのコレステロール排出は増加した。また、培地中に胆汁酸を添加すると排出活性が亢進することから、小腸管腔側でのコレステロールのアクセプターは胆汁酸が主たる成分であることが示唆された。さらに、大豆蛋白質分解ペプチド画分には、胆汁酸同様、コレステロール排出を上昇させる効果が認められ、大豆蛋白質の脂質代謝改善効果の部を説明することができた。 (2)胆汁酸トランスポーター活性評価系の構築 抱合型胆汁酸は培養細胞に取り込まれることはなく、細胞に胆汁酸トランスポーターを発現させるとこれが可能になる。細胞に胆汁酸をリガンドとする核内受容体FXRを発現させ、取り込まれた胆汁酸により活性化されたFXRをルシフェラーゼ活性として検出する実験系を構築した。この系に、各種食品成分を添加し、胆汁酸取り込みを阻害する活性を追跡する事が可能となった。
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