研究概要 |
本補助金により、今年度得られた研究成果は以下の通りである。 [A]肝臓オートファジーの栄養生理的役割:食事タンパク質の質が肝臓のオートファジー性タンパク質分解速度に影響を与えるか、カゼインと大豆タンパク質に続き、米タンパク質、小麦タンパク質、ポテトタンパク質、オボアルプミンなどに拡張して調べた。その結果、現在までのところ、動物性タンパク質の方が植物性タンパク質よりも高い速度を示した。けれども米タンパク質は例外的に動物性タンパク質よりさらに高い速度を示した。従って、タンパク質め質は明らかに定常状態における分解速度、つまり代謝回転速度に影響を与えることが明らかになった。 [B]肝細胞オートファジー形成段階の調節機構:主要な生理的調節因子としてのアミノ酸による調節機構を明らかにすることを目指して、以下の2通りのアプローチを行った。 a)肝細胞膜上のアミノ酸受容体の探索…ロイシンをモデルに膜不透過性誘導体Leu_8-MAPを合成し、ASA化とビオチン化を行い、ASA基と膜タンパク質とをPhotoaffinity labelingにより結合させ、ビオチン基をアビジン処理樹脂に結合させて標的タンパク質を濃縮・精製している。現在まで、ロイシンに特異的な親和性を示す分子量10万のタンパク質が濃縮されつつある。 b)アミノ酸によるシグナリング機構…アミノ酸シグナルの最下流の候補として、オートファゴソーム関連タンパク質のひとつであるLC3に注目した。細胞分画したところ、サイトゾル画分にのみLC3のI型(前駆体型)とII型(活性型)が共存した。肝細胞実験でアミノ酸の添加により、このI型からII型への変換の抑制が明確に認められた。この変換は刺激後わずか5分で検出され、オートファジー形成の抑制というアミノ酸の生理作用を考える上で、オートファゴソーム近傍でのターゲットであることが強く示唆された。この反応はLeu, Tyr, Glnなどの単独のアミノ酸によっても再現できた。 [C]肝細胞オートファジー成熟段階の調節機構:オートファゴソームとリソソームのヘテロタイプ融合をin vitroで検出すべく、前回の課題で見つかった細胞質酵素のBetaine-homocysteine methyltransferase(BHMT)の部分フラグメント(p32)をプローブとして利用することを検討した。その結果、リソソーム画分を用いたin vitro系で反応10分という短時間内では直線的な融合反応が検出され、この反応はATPとサイトゾルタンパク質に依存すること、サイトゾル中のGTP結合タンパク質やNSFタンパク質が関与していることが明確に示された。さらに、サイトゾルの栄養的影響を検討したところ、摂食直後のサイトゾルでは、この融合反応が約30%阻害されることが明らかになった。これはオートファゴソーム・リソソームのヘテロタイプ融合の性質を初めて明らかにしたものである。
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