木本植物、とくに常緑樹の最大光合成活性(CO_2吸収速度)は、草本植物や落葉樹に比べて著しく低いという特徴がある。本研究では、(1)常緑樹と草本葉の最大電子伝達や光合成能力は、高CO_2濃度のもとでは大きな差はないこと、(2)常緑樹における葉肉細胞のCO_2透過性は草本植物と比較して著しく低いこと、(3)生体膜のCO_2透過性が低いことが常緑樹の光合成能力を低下させている原因(律速因子)であることなどの結果に基づき、常緑樹葉における生体膜のCO_2透過性に注目して研究を進めている。常緑樹の光合成能力の律速因子の解明を目的として、本年度は、常緑樹(クスノキ)のω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子のクローニングと遺伝子の発現部位、環境応答性について調べた。 クスノキより単離した新規遺伝子ChFAD7-1およびCHFAD7-2のcDNA塩基配列は互いに高い相同性を持ち、両者は推定アミノ酸配列から葉緑体局在型をコードする遺伝子であると結論した。 トランジットペプチド領域とGFP(グリーン蛍光タンパク質)からなる融合タンパクを導入した形質転換シロイヌナズナの葉肉細胞を観察すると、GFP蛍光が葉緑体においてのみ観察された。これら2種類の遺伝子の完全長cDNAをトリエン脂肪酸含量が少ないシロイヌナズナのSH1ミュータントに導入したところ、16:3、18:3含量の回復が見られた。また、傷害、低温、光などの環境刺激によってそれぞれの発現様式に明らかな違いが見られた。このことからクスノキには葉緑体移行型ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子が少なくとも2種類存在し、環境要因によってそれぞれの遺伝子発現が異なった調節を受けていることが示唆された。これらの結果と並行して、葉肉細胞のCO_2透過性を測定するための測定法の改良を進めている。
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