樹木の中でも常緑樹は、草本植物や落葉樹と比較して、大気中の炭酸ガス濃度のもとでの光合成活性が極めて低いという特徴がある。この原因を明らかにするため、本研究では樹木の光合成活性、光呼吸活性、葉における炭酸ガス透過性などを正確に測定する実験法を確立した。 次に、葉内のCO_2透過性やCO_2濃度勾配をいろいろな樹木、草本植物で解析し、常緑樹は生体膜のCO_2透過性が低いこと、また、CO_2透過性と生体膜の脂質を構成している脂肪酸の不飽和度との間に密接な関係があることを見いだした。すなわち、不飽和脂肪酸の増加とともにCO_2透過性および光合成活性が増加するという結果が得られた。これらの結果を形質転換体植物で確かめるため、クスノキ、シロイヌナズナ、タバコの生体膜における不飽和脂肪酸含有率を決定する脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(FAD遺伝子)のクローニングを行うとともに、(葉緑体包膜および細胞膜における脂質の脂肪酸組成を変えるための組み換え実験を行った。 また、生体膜の脂肪酸組成は、植物の低温耐性、高温耐性能力にも関係していることが知られている。生体膜の脂肪酸組成を改変した植物をつくったときは、環境温度ストレスに対する耐性能力が変化することも考えられるので、低温光ストレスなどの耐性能力に関係すると考えられるアンチオキシダント、特にα-トコフェロール欠乏変異体をイネから選抜し、環境温度ストレスとの関係を解析した。その結果、α-トコフェロール欠乏変異体は低温に対する抵抗性が著しく低下することを見いだした。 以上、これまでの2年間の研究で、光合成能力と膜のCO_2透過性との関係を解析するための実験法を確立した。また、生体膜の脂肪酸組成を改変したタバコおよびシロイヌナズナ形質転換体を作製した。さらに、トコフェロールは植物を低温光阻害から守るために必須成分であることを見いだした。最終年度は、形質転換体の光合成能力およびストレス耐性能を重点的に解析する予定である。
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