研究概要 |
1.有明海における農薬の流入調査 有明海に流入する農薬を明らかにするため以下の実験を行った。 [方法]2003年8月に有明海筑後川河口3地点より海水を採取して,固層抽出を行い567種農薬の一斉分析を行った。得られたデーターの解析にはAgilent社G1049A GC/MSD RTLを用いた。 [結果]3地点から12種類の農薬が検出され(dimetilan, p, p'-DDT, benzoylprop ethyl, isoprocarb, oxabetrinil, benthiocarb, mepronil, hexestrol, propargite, fenobucarb, bromobutide, tricyclazole)が検出され,有明海へ農薬が流入していることが明らかとなった。これらの物質が有明海の生物に影響を与えている可能性が考えられた。 2.トリブチルスズ(TBT)のアサリの初期発生に及ぼす影響 有明海ではアサリの資源が1/10に激減している。これまでの研究からこの原因の一つとしてTBTによる影響が考えられた。よってアサリにTBTを暴露し,次世代の初期発生に対する影響を調べた。さらに受精卵にTBTを暴露してその発生への影響も調べた。 [方法]1)次世代に対するTBTの影響 アサリ成貝100個に対し半止水式でTBT(実測濃度0.061,0.312および0.352ug/L)を3週間暴露した。また,対照区も設けた。暴露終了後,アサリを産卵誘発し,受精卵を得た。受精約27時間後にD型幼生となった個体数より正常な受精卵の発生の割合を算出した。2)受精卵に対するTBTの影響 TBTを暴露していないアサリ成貝を用い,1)の方法で受精卵を得た。4つのTBT濃度区(実測濃度0.062,0.141,0.324および0.643ug/L),対照区および助剤対照区を設定した。このTBT含有海水に受精開始4時間後の受精卵を入れ,暴露約23時間後にD型幼生となった個体数より正常な受精卵の発生の割合を算出した。 [結果]アサリ成貝にTBTを3週間暴露した結果,メス体内中のTBT濃度と正常なD型幼生の割合に有意な負の相関が見られた(r=-0.97,p<0.05)。よって,メス体内より卵へ移行したTBTが次世代の発生に影響を及ぼすことが明らかとなった。また,0.062μg/L以上のTBTを暴露した受精卵の正常なD型幼生の割合は有意に減少した(P<0.05)。本研究より,TBTがアサリの次世代の発生に影響を及ぼすことが明らかになった。
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