研究課題
1)免疫学的探索:アコヤガイ病貝に対する単クローン抗体を作製し、その反応性を検討した結果、得られた抗体はアコヤガイ感染症を発症したアコヤガイの血リンパ液に反応し、季節変化や感染実験などの経過観察からも、本疾病の診断液として有効であると考えられ、特許出願の準備を行った。(伊東担当)2)ウイルス学的探索:病害血リンパ液病原性画分中に含まれる微量な病原体の核酸(DNAを想定)を抽出増幅、制限酵素消化後、プラスミドベクターを用いてゲノムライブラリーを作製し、塩基配列を決定し、解析することを目的とした。現在までの研究結果、病原性分画中に含まれるDNAのほとんどがNanovirusと関連の深い新しい科のssDNAウイルスのものと考えられ、本ウイルスのゲノムは、5663bの円環状のmajor componentを主体とし、それに付随する約1.2kbと約0.5kbの円環状のsatellite componentが認められた。satellite componentの多型のうち、病貝特異的なものがあるかどうか確認中である。(栗田担当)3)細菌学的探索:昨年に引き続き、アコヤガイ赤変病の原因に濾過性の真正細菌類が関与しているかを確かめるため、アコヤガイ病貝から菌分離および真正細菌の塩基配列の検出を試み、健常貝と比較することによって、濾過性の真正細菌類が病気へ関与しているか調査することを目的とする。様々な細菌分離培地を試み、分離された菌についての特性を明らかにし、さらに、病貝から分離された菌、もしくは病貝から検出された配列に対して特異的なプライマーを作成し、PCRをした結果、全ての菌および配列において、健常貝からも増幅産物が確認された。(釜石担当)4)分子生物学的探索:昨年に引き続き、アコヤガイ体内の細菌相を非培養的手法で解析し、病変と細菌相の関係を解明することを目的とした。アコヤガイ各組織からDNAを採取し、16S-rRNA遺伝子を増幅し、変成剤濃度勾配電気泳動で分離して泳動パターンを比べた。特徴のあるバンドは、塩基配列を調べ、近縁細菌を検索した。その結果、健常貝、試験感染貝、罹病貝で、細菌相に明瞭な違いは認められなかった。一方で、罹病貝で日和見病原菌に近縁の細菌遺伝子が検出された。(坂見担当)5)組織学的探索:本年度は、病原体の組織分布を調べるため、感染試験を行った。病貝および健常貝の各臓器(心臓・閉殻筋・外套膜・消化盲嚢・血清・血球)の組織片(5mg)を健常貝に移植し、100日後に斃死率、赤色度(a値)および組織観察を行った。その結果、外套膜と閉殻筋に感染源が多く存在すると推定された。その結果から、さらに病貝および健常貝の外套膜と閉殻筋をホモジナイズし、遠心後、沈渣および上清を健常貝に接種し、140日後にサンプリングを行った。その結果、病貝の外套膜・閉殻筋・血清に高い感染価が認められたため、これらの組織に病原体が多く存在すると考えられた。特に外套膜が主な感染器官と考えられた。(中易担当)
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Fish Pathology(魚病研究) 39・4
ページ: 203-208