受精前後における遺伝子発現プログラムの初期化機構を解明する目的で研究を行った。まず初期化の機構について、「初期化には、cell memoryの消去が必要である」との仮説を立て、この仮説の検証を行い、さらにcell memoryを消去する機構の解明を行うこととした。 そこで、cell memoryのマーカーとして近年注目を集めているヒストンのアセチル化について調べた。体細胞、および受精後の初期胚の体細胞分裂期における様々なヒストンのリジン残基のアセチル化状態についてそれぞれの特異抗体を用いて免疫染色法により調べた結果、体細胞およびすべての発生段階の胚においてほとんどのリジン残基が分裂期においてもアセチル化されたままであり、これらがcell memoryのマーカーとして機能しているという仮説を支持するものであった。続いて、減数分裂中の卵におけるヒストンのアセチル化状態を調べた。GV卵では調べたすべてのリジン残基がアセチル化されていたものが、減数分裂に入るとすぐにすべてのアセチル化が消失し、第2減数分裂中期まで脱アセチル化されたままであった。さらに、体細胞核を未受精卵に移植することにより遺伝子発現のリプログラミングが起こることが知られているため、移植後に凝集した染色体におけるヒストンアセチル化状態を調べたところ、上記のすべてのリジン残基においてアセチル化が消失していた。 以上により、減数分裂特異的なヒストンの広範な脱アセチル化が、受精前の遺伝子発現の初期化機構に関与していることが示唆された。 さらに、この減数分裂期特異的なヒストンの脱アセチル化は、脱アセチル化酵素がこの時期特異的に染色体に結合できることによることを示し、その調節にp34^<cdc2>が関与していることを明らかにした。
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