本研究では、延髄付近の上衣細胞が、エネルギーレベルを包括的に感知し、摂食や生殖を制御するという仮説を証明することを目的として、いくつかの実験を行った。 1.脳内各領域におけるグルコキナーゼの同定 上衣細胞やセロトニンニューロン、視床下部におけるグルコキナーゼについて、クローニングを行い、膵臓型の一つであるB1が脳の中では優位を占めることを明らかにした。また転写開始点についても膵臓に類似していることを示した。さらに血糖値により上衣細胞のグルコキナーゼ発現だけが負の制御を受けていることを発見し、血糖感知機構との関連を示唆した。 2.ケトン体の上衣細胞における感知機構 ケトン体が第4脳室を裏打ちする上衣細胞によって感知されるか否かを確かめるため、in vitroにおいて、細胞内カルシウムの変化を指標として実験を行った。細胞培養液内へのケトン体の添加が、上衣細胞における細胞内カルシウムを上昇させたことから、上衣細胞は、直接ケトン体濃度を感知する可能性が高いと考えられた。さらに、ケトン体の血中濃度が高いことで知られる糖尿病ラットをモデルとして用い、ケトン体が第4脳室周囲のケトン体トランスポーターを介してカルシウム濃度を感知しているのかどうかを検討するため、ケトン体のトランスポーターの阻害剤を第4脳室に投与したところ、糖尿病ラットのおける過食を阻害することが明らかとなった。以上のことから、第4脳室周囲のMCT-1がケトン体の感知に中心的な役割を果たすことが示唆された。
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