1.インフルエンザウイルスが末梢神経経由で中枢神経へ侵入することの証明 (1)一側の頸部迷走神経を外科的に切断したBALB/cマウスに神経向性インフルエンザAウイルスを経鼻接種し、経時的にマウスを屠殺剖検し、それらの末梢神経(節)、中枢神経および一般臓器を病理学的に検索した。その結果、非切断側では、ウィルス抗原が呼吸器粘膜から迷走神経節、次いで脳幹迷走神経核に出現したが、切断側では迷走神経節への出現が2日間遅れた。これは、非切断側の迷走神経核からウイルスが下行性に切断側の迷走神経節へ感染したことを示しており、経鼻接種されたインフルエンザウイルスは呼吸器粘膜で増殖後、迷走神経を経由して中枢神経(脳幹)へ侵入するという我々の仮説を証明するものであった。本実験結果を纏めて、Veterinary Pathologyに投稿中である。 (2)神経向性インフルエンザAウイルスをBALB/cマウスの足蹠、坐骨神経、関節腔および眼球内に接種したが、ウイルスが中枢神経へ達することは無かった。従って、インフルエンザウイルスは自律神経を伝導するが、脊髄神経は伝導しないことが示された。現在、何故この様な違いが起きるのか検索中である。 2.インフルエンザウイルス感染でライ症候群を実験的に再現できるか? ライ症候群は小児の急性壊死性脳症で、インフルエンザ患者へ解熱剤を投与したとき発生し易いことが知られているが、そのメカニズムは不明である。我々は、マウスに経鼻接種したウイルスは神経行性に中枢神経へ侵入するが、鶏では、血行性に脳へ侵入することを証明してきた。そこで、これらの動物に解熱剤(アスピリンおよびボルタレン)を投与してインフルエンザウイルスを経鼻接種したところ、マウスでは解熱剤投与の影響はなかったが、鶏では解熱剤投与群にのみインフルエンザ脳炎が発生した。現在、そのメカニズムを解析中である。
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