研究概要 |
Bartonella感染症における宿主免疫応答の解明を目的として,マウスを用いた感染実験モデルを構築し,B.henselae実験感染マウスにおける菌の体内分布・動態,および液性免疫応答を明らかにした。その結果,本菌はマウスにおいては速やかに菌の排除が確認され,持続感染するネコの場合と対照的であった。以上の成績より,Bartonella感染症における宿主免疫応答の解明にはマウス,およびネコにおける免疫応答について比較検討することにより,本菌を効果的に排除する免疫応答を決定できると考えられた。 Bartonella感染症に対するワクチン開発,および診断用抗原の探索を目的として,本菌に特異的な新規Bartonella抗原遺伝子のクローニングを試みた。本菌のゲノム発現ライブラリーを構築し,本菌免疫マウス,および感染ネコの血清をもちいたイムノスクリーニングにより,本菌の新たな抗原遺伝子sucBホモローグを得た。組換え大腸菌の系を用いて組換えB.henselae sucBを発現し,本菌免疫マウス,および感染ネコの血清に対して抗原性を確認した。今後,本菌感染症に対する診断用抗原,あるいはワクチン候補抗原としての応用が期待される。 猫ひっかき病患者(36歳,男性)からBartonella henselaeを本邦で初めて分離した。患者は受診時の2ヶ月前より猫を飼育しており,全身に猫の引っ掻き傷,ノミの刺し跡,掻痒を伴った小豆大のビラン性紅斑および左鼠径リンパ節の鶏卵大の腫脹が認められた。患者のB.henselae抗体価は1:64倍で,血液,摘出した鼠径リンパ節,および猫ノミからPCR法でB.henselae DNAが検出された。また,摘出したリンパ節ホモゲナイズから,90個/gのB.henselae type Iが分離された。制限酵素Not Iを用いたパルスフィールドゲル電気泳動法で分離5株のゲノムDNAを解析したところ,2種類の異なるゲノムパターンが認められた。これより,該患者は2種類のB.henselaeに感染していたことが判明した。また,猫ノミからも本菌のDNAが検出されたことから,ノミを介した感染の可能性も示唆された。
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