(1)マウス7番染色体遠位部のインプリンティング領域にinversionをもち、インプリント遺伝子の発現異常をきたしているマウスを用いて、複製タイミングを検討した結果、インプリント領域では、inversionをもつマウスの複製タイミングも、正常マウスと同様アリル間で非同調的であった。これは、複製のアリル間非同調性がインプリント遺伝子のアリル特異的発現制御に直接的に関与するのではなく、インプリンティング等、特殊な制御を受ける領域の基盤としての役割を担うことを示唆する。一方、この領域は二つ以上のドメインからなると考えられ、この領域内に見出された特異的反復配列およびその周辺について複製タイミング等を解析した。タイミングの非同調性は維持されていたものの、この配列はドメインの境界やインプリンティングのターゲットである可能性を示唆した。 (2)S期の進行に伴う複製の進行過程を解析し、複製フォークの進行速度がS期の初期から中期にかけて一端減速し、後期に最も速くなることを、独自に開発したDNAファイバー上で複製フォークの進行速度を測定する方法により見出した。また、マウス・セントロメア周辺領域の複製起点の活性化と複製フォークの進行速度はヒストンのアセチル化により制御されることを明らかにした。さらに、カンプトテシン処理によるDNA損傷時に作動するチェックポイント制御についても検討し、各種特異的阻害剤存在下での複製フォーク速度やDNA合成量を調べる実験から、DNA損傷時に、S期チェックポイント因子PI3KKが複製開始点の抑制と複製フォークの安定性に貢献することを見出した。 (3)分子コーミング技術を確立し、DNAファイバー上での複製解析へ応用する一方、インプリント遺伝子の複製がアリル間で非同調的なタイミングで複製することをセミファイバーを用いる独自の方法で証明した。
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