研究概要 |
甲状腺ホルモン(TH)は中枢神経系の正常な発達のために不可欠である。THは特定の臨界期のみ中枢神経系に作用する。本研究はげっ歯類小脳を用いて中枢神経系発達に及ぼすTHの作用機構を解明する事を目的としている。 TH受容体(TR)発現は発達につれ増加するので,臨界期以降のTH感受性低下には別の機構が関与する可能性が高い。我々は、中枢神経系で強く発現するTRの転写共役因子のSRC-1の関与を調べている。昨年度,ラット小脳ではSRC-1はプルキンエ細胞に強く発現し、内顆粒層にも発現している事がわかった。本年度,ウエスタンブロットにより解析を進めたところ,TH作用が最も強くなる生後14日目にSRC-1タンパクレベルでは最も多量に発現しており,従来のmRNAレベルの定量結果と異なる事がわかった。 同時に,昨年度,発達期小脳におけるTR結合蛋白として採取したpositive cloneの解析を進めた。その結果,ovarian cancer overexpressed (OVCOV)-1遺伝子とアミノ酸配列が一致した。OVCOV-1は,全長365アミノ酸で,核内ホルモン受容体結合領域であるLXXLLモチーフを3つ含む。現在,機能解析を進めている。 また,臨界期に環境ホルモン等によりTHの作用が撹乱された場合,脳発達に影響が出る事が知られている。そこで,レポータージーンアッセイを用いてTRによる転写調節への内分泌撹乱物質の作用を調べた。昨年度,低用量のPCBがTRを介する転写を抑制する事がわかった。本年度,抑制を生ずるメカニズムについて調べたところ,抑制作用は従来の転写制御メカニズムとは全く異なり,PCBがTRをDNA上のTH応答配列から一部解離させている事がわかった。現在この作用がダイオキシン類など他の撹乱物質でも生ずるかどうか更なる解析を進めている。
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