研究概要 |
甲状腺ホルモン(TH)は中枢神経系の正常な発達のために不可欠である。THは特定の臨界期のみ中枢神経系に作用する。本研究はげっ歯類小脳を用いて中枢神経系発達に及ぼすTHの作用機構を解明する事を目的としている。 THの中枢作用を行動レベルで解析するために,先天性甲状腺機能低下症ラット(rdw)を用いて行動解析を実施した。その結果,赤外線センサーを用いて解析した飼育ケージ内の自発行動量解析では,甲状腺機能低下ラットの自発行動量が対照ラットに比べ著明に低い事がわかった。その一方,Open fieldを用いて測定した新奇性の環境下では対照ラットと同様またはむしろ高い行動量を示した。その一方で,明らかな小脳失調も示した。 同時に,昨年度,発達期小脳におけるTR結合蛋白として採取したovarian cancer overexpressed(OVCOV)1遺伝子の機能解析を進め,OVCOV1が発現量に依存して甲状腺ホルモンによるTRを介する転写を抑制する事を明らかにした。OVCOV1はconstitutiveな転写抑制因子として多くの機能に関与している可能性が高く,慎重に解析を進めたい。 また,臨界期に環境ホルモン等によりTHの作用が撹乱された場合,脳発達に影響が出る事が知られている。昨年度,低用量の水酸化PCBがTRを介する転写を抑制し,その作用はPCBがTRをDNA上のTH応答配列から一部解離させ,生ずるがわかった。そこで,この作用がダイオキシン類など他の撹乱物質でも生ずるかどうか,解析を進めたところ,2,3,7,8-四塩化便ぞダイオキシンでは全く抑制を生じなかったが,塩化ジベンゾフランやコプラナーPCBでは水酸化PCBと比べ100倍程度の高濃度でTRを介する転写を抑制する事がわかった。
|