研究概要 |
薬物受容体は,細胞膜に単独で存在せず,多くの蛋白質と相互作用している。同族の受容体サブタイプ間においてもhomodimerとしてだけでなくheterodimerとしても存在し,特異な薬理学的特性を示すことが報告されるようになってきた。α_1-アドレナリン受容体(AR)もhomodimer, heterodimerを形成することが最近明らかにされたが,その薬理学的特性はまだ解明されていない。今年度は,α_<1A>-ARサブタイプとα_<1B>-ARサブタイプを共発現させ,その薬理学的特性,機能的特性を詳細に調べた。 実験には,α_<1A>-ARとα_<1B>-ARをHEK293細胞に安定に共発現させた細胞株と,各サブタイプを同レベルに発現させた細胞株を用いた。まず結合実験において,各薬物に対する結合親和性を検討し,共発現は薬物のサブタイプ選択性および親和性に影響をおよぼさないことを明らかにした。しかし,機能実験において,inositol phosphates産生とMAP kinaseの活性化はα_<1A>-ARとα_<1B>-ARの共発現で著しく増強され,EC_<50>値が左方にシフトする,いわゆるsupersensitivityを惹起することを見出した。このsupersensitivityは,サブタイプ非選択的アゴニストphenylephrineの反応でのみ観察され,α_<1A>-AR選択的アゴニストmethoxamineの反応には認められなかったことより,supersensitivityはα_<1A>-ARとα_<1B>-ARの同時刺激の場合にのみ惹起されることを明らかにした。このsupersensitivityのメカニズムとして,α_<1A>ARとα_<1B>-ARのheterodimer形成およびそれに続く細胞内シグナリングのcross-talkが考えられた。また,supersensitivityとなった反応は,prazosinやKMD-3213といった競合的アンタゴニストで抑制されたが,その機能的親和性(pK_b値)はそれぞれ単独のサブタイプに対する機能的親和性の中間値を示すという,興味ある結果を得た。 また,受容体の構成的活性化は共発現と関係しないことも明らかとなった。
|