研究概要 |
ラット脳室内へのβアミロイドの持続注入により誘発される脳機能障害のメカニズムを検討し、以下の結果を得た。 1.βアミロイドの持続注入により、海馬において誘導型一酸化窒素(NO)合成酵素(iNOS)が誘導される。 2.iNOSにより合成された大量のNOはペルオキシ亜硝酸に変換され、シナプス蛋白であるシナプトフィジンのチロシンニトロ化を誘発する。 3.βアミロイドの持続注入によりチロシンニトロ化を受けたシナプトフィジンは、チロシンリン酸化の基礎レベルが増加し、シナプトブレビンとの結合が低下している。 4.iNOS阻害剤であるアミノグアニジン(AG)およびペルオキシ亜硝酸スカベンジャーである尿酸(UA)は、βアミロイドにより誘発されるシナプトフィジンのチロシンニトロ化を抑制する。 5.AGおよびUAは、βアミロイド注入ラットにおけるアセチルコリン遊離の障害を改善する。 6.AGはβアミロイド注入ラットにおける学習記憶障害を改善する。 7.βアミロイドの持続注入により、内因性抗酸化物質(Mn-SOD, GSH, GSH peroxidase, GSH-S-transferase)の免疫反応性が脳部位特異的に減少する。 8.βアミロイド注入ラットの海馬では、細胞質のプロテインキナーゼC(PKC)活性が低下し、in vitroにおけるフォルボールエステル刺激により誘発されるPKCのトランスロケーションが障害される。 以上の結果より、βアミロイドの持続注入により誘発される脳機能障害には、iNOS誘導に伴うシナプトフィジンのチロシンニトロ化が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、βアミロイドにより誘発される脳機能障害には、PKC活性の低下と機能障害および酸化的ストレスが関与していることが示唆された。
|