研究概要 |
アセチルコリン(ACh)は,一般に神経伝達物質として認識されている.しかしながら,AChは皮膚のケラチン細胞,気道の粘膜上皮細胞などの様々な非神経性組織にも存在し,細胞間機能調節物質として働いている可能性が指摘されている.さらに,我々はリンパ球がAChを産生し,AChに対する受容体を発現していることを発見し,リンパ球におけるコリン作動系の存在を提唱した.このリンパ球コリン作動系の生理的役割を解明し,新しい作用メカニズムをもつ免疫調節薬開発のための理論的根拠の構築を目的として,以下の検討を行った. 1.免疫機能異常とリンパ球コリン作動系活性との関連性の解明 免疫機能異常モデルとして,自己免疫性糸球体腎炎を発症するMRL/1prマウスを用いて正常マウスと比較した.糸球体腎炎が発症する20週令において,リンパ球のACh合成酵素コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性が上昇してしていた. 2.プロスタグランジンE2のTリンパ球におけるACh産生調節への関与の検討 T細胞系白血病細胞株CEMにおいて,EP4作用薬がChAT遺伝子およびその酵素活性を増強することにより,ACh産生を増大させることが明らかとなった. 3.リンパ球機能に影響を及ぼすムスカリン受容体(mAChR)サブタイプの同定 M3,M4およびM5 mAChRノックアウト(KO)マウスから調製したリンパ球において,KOされたサブタイプを除くM2-M5サブタイプの遺伝子発現を確認した.KOマウスにおける各サブタイプ遺伝子の発現レベルが野生型と差がなかったことから,代償的なmAChR遺伝子発現は起こらないことが明らかとなった.現在,各種サイトカイン(インターロイキン-2,-10など)発現調節に関与するサブタイプを確認中である. これらの知見から,リンパ系コリン作動系が免疫機能調節に関与している可能性が確認された.
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