研究概要 |
本研究においては造血分化に関与する分子機構とその病態生理学的意義を多角的に明らかにすることを目的としている。本年度の成果として(1)造血細胞分化に必須の役割を果たしているホルモン:エリスロポエチンが、子宮癌の進展とくに血管増勢にも関与していることが明らかになった。このことは、癌治療にエリスロポエチン(EPO)のシグナル伝達系を利用できる可能性のあることを示している(Carcinogenesis,23:1797-1805,2002)。(2)また、脊椎動物においてヘムにより調節を受けることが初めて明らかになった転写因子Bach1が、ヒトの低酸素応答に深く関与していることが示された(J. Biol, Chem.,278:9125-9133,2002)。このことは、近年解明が続いている、低酸素応答の代表としてのEPO遺伝子の発現において「酸素センサーとして機能しているのは、鉄存在下におけるプロリン(細胞質内)およびアスパラギン酸(核内)水酸化酵素である」という一連の研究で見落とされていた、一酸化炭素によるEPO誘導の抑制、およびコバルトポルフィリン錯体の形成によるEPO誘導という、ヘムが酸素センサーとして機能しているという現象を説明する上で、Bach1が重要な役割を果たしていることを示している。(3)一方、このBqch1のヘムによる調節の異常が、映画シビルアクション(1999)で謎とされた「トリクロロエチレンによってどうして十数人もの子供達が白血病になったか?」という疑問を解く鍵になるのではないかと考えられる(Environ. Health Prevent. Med.,7:103-112,2002)。このように、本研究において、造血細胞分化一酸素応答を解析することが、病態のメカニズム解析に重要な知見を与えていることが明らかにされつつある。以上の他に、造血細胞に属する巨核球-血小板におけるカルパインやStat3の役割についての研究成果も上がっており(Blood,99:1850-4852,2002;Blood,99:3220-3227,2002)、計画一年目として順調に進行していると考える。
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