研究概要 |
目的 SAPKシグナル伝達路は、細胞の分化、アポトーシス、ストレス応答に関わる重要な情報伝達経路である。MAP3K, MAP2K, JNK/p38の3段階のプロテインキナーゼにより構成されるSAPKシステムは、各段階におけるリン酸化による活性化とプロテインホスファターゼによる負の制御がうまくバランスを取ることにより精密に調節されている。我々はプロテインホスファターゼ2Cβ(PP2Cβ)がMAP3KのひとつであるTAK1の活性調節に関わることを明らかにしてきた。本研究では、プロティンホスファターゼ2C(PP2C)の同経路における制御因子としての役割を更に詳細に解明することを目的とする。 結果 (1)PP2CεのIL1依存性のSAPK活性化制御への関与 最近我々は、ESTクローニングにより、3種類の新規のPP2Cファミリーメンバー(PP2Cε,PP2Cζ,PP2Cη)をコードするcDNAを単離した。これらの過剰発現がIL-1依存性のSAPKシグナル活性化に影響を与えるかどうか検討したところ、PP2Cεが抑制効果を有することが明らかとなった。293細胞における解析の結果、PP2CεはPP2Cβと同様MAP3KであるTAK1の活性化を抑制していることが判明した。PP2CεはTAK1およびその下流に位置するMKK4、MKK6と複合体を形成していたが、IL-1の添加に伴い複合体からの遊離が見られ、続いてTAK1の不活性化に伴い、複合体の再形成が観察された。これらの結果は、PP2Cεが単にTAK1の不活性化状態を維持するというよりもむしろIL-1依存性SAPKシグナルの活性化機構の重要な因子であることを示唆している。 (2)PP2Cβノックアウトマウスの作製 PP2CβのSAPKシステムの制御因子としての生理的意義を明らかとする目的で同遺伝子のノックアウトマウスの作製を進めてきた。現在までに遺伝子破壊部位をヘテロに持つマウスを得ることができ、現在、遺伝子破壊部位をホモに持つマウスを作製中である。
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