種々の成長因子からの刺激はPI3Kを活性化し、PI3KはPIP2をPIP3に変換することによって下流のAktを活性化し、細胞増殖、アポトーシス抵抗性に働く。癌抑制遺伝子PTENはPIP3をその主な基質とし、この経路を負に制御する。PTEN欠損マウスは胎生早期に致死となることから、我々はPTENfloxマウスを作成し、B細胞、ケラチノサイト、生殖細胞における機能を解析した。 B細胞特異的PTEN欠損マウスはBla細胞が増加し、自己抗体の産生が増強した。B2細胞では辺縁B細胞が増加し、濾胞性B細胞は減少していた。PTEN欠損細胞は増殖亢進し、アポトーシス抵抗性、細胞遊走性亢進を示した。生化学的にはAktの活性化を見た。また、免疫グロブリンのクラススイッチが障害され、これは組換酵素AIDの発現誘導の障害が示唆された。このようにPTENはB細胞の分化や恒常維持に必須であることを明らかにした。 ケラチノサイト特異的PTEN欠損マウスは皮膚上皮や角質層の肥厚、硬化、毛髪の彎曲、毛嚢の形態形成の加速を認めた。また食道の角質層も肥厚し、嚥下障害による栄養不良のために90%が3週以内に死亡した。離乳期を越えたマウスは長期生存したが、生後8.5ケ月までに全例腫瘍を形成し、化学発癌も加速した。PTENが欠損したケラチノサイトは増殖亢進、アポトーシス抵抗性で、PKBやMAPKの活性化が見られた。このようにPTENは皮膚の分化や腫瘍抑制に重要な分子であることを明らかにした。 生殖細胞特異的PTEN欠損マウスでは、未分化な細胞のマーカーを持つ生殖細胞が増加すること、始原生殖細胞からのEG細胞の形成率が著しく高いことから、PTENの欠損は生殖細胞においても未分化性を維持させていることを見出した。また、全例奇形腫を呈し、これは未分化性維持機構によるものと思われた。
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