膜型マトリックスメタロプロテアーゼMT1-MMPは癌細胞表面に特異的に発現し癌の浸潤・転移に重要な役割を果たすと考えられるが、その機能については不明な点が多く、また従来の生化学的なアプローチではその解明は困難であった。我々はMT1-MMPの制御因子及び新規基質を同定する発現クローニング法を開発し、いくつかの分子を同定し、癌の浸潤・転移における機能を明らかにした。例えば、シンデカンー1の発現レベルは癌の悪性度と逆相関することが知られているが、我々はシンデカンー1の発現はコラーゲン上での細胞運動を抑制し、MT-MMPによりシンデカンー1の細胞外ドメインが切断されたことにより運動性が亢進することを明らかにした。さらにMT-MMPの新規基質として癌転移抑制遺伝子産物KiSS-1を同定した。またMT-MMPはKiSS-1遺伝子にコードされるmetastinペプチドをも分解することを明らかにした。metastinはGタンパク共役型受容体と結合して細胞運動を負に制御することにより癌転移を抑制することが報告されているが、本研究では癌細胞の発現するMMPによりmetastinが分解されることを見い出し、MMP阻害剤とmetastinの併用は効率良く癌細胞の運動を抑制することを報告した。本研究で明かとなったMT1-MMPの新規機能は今後、MT1-MMPを分子標的とした癌治療法を開発する上で重要な知見となる。
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