ハンチントン病、Machado-Joseph病(MJD)等の9つの遺伝性神経変性疾患は原因遺伝子内の伸張したCAGリピートが作り出すグルタミンリピート(ポリグルタミン)によって発症すると考えられるため「ポリグルタミン病」と呼ばれる。しかし、何故ポリグルタミンが神経細胞変性や細胞死を引き起こすかは十分に解明されていない。本研究では、ポリグルタミン病の一つであるMachado-Joseph病(MJD)の分子解析を行い、その結果、AAA ATPase蛋白質の一つp97/VCPが神経変性疾患において重要な役割を果たすことを示す多くの実験結果を得た。すなわち1)VCP蛋白質はポリグルタミンの凝集体やLewy小体などの神経変性疾患に認められる異常蛋白質と共局在を示すこと、2)VCPのATPase活性の低下は空胞形成を伴う神経細胞死を誘導すること、3)VCPは細胞内の凝集体を解きほぐす潜在能力をもつこと、4)VCPがいろいろな蛋白質修飾を受けること、5)蛋白質修飾によってVCPのATPase活性が変化することを見いだした。すなわち、異常蛋白質の蓄積によって、VCP蛋白質が蛋白質修飾を受け、その結果、VCPのATPase活性が低下し、それが空胞形成を伴う神経細胞死を誘導することが示唆された。さらに、MJDの原因蛋白質を特異的にプロセシングする活性を有する神経細胞株を分離することに成功した。これは、MJD発症の第一ステップを担うと考えられるMJD蛋白質のプロセッシング酵素の同定に向けての足場と成ることが期待される。
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