Voltage-dependent anion channel(VDAC)はミトコンドリア外膜に存在するチャネル蛋白質であり、ミトコンドリアと細胞質の間の代謝物質の輸送を制御し、細胞のエネルギー産生ひいては生存に必須の蛋白質である。特に癌細胞においては、VDACと解糖系酵素ヘキソキナーゼとの協同作用で、低酸素環境下でも発育できる特殊なエネルギー代謝系を確立している。また、VDACは生存のみならずアポトーシスにおけるミトコンドリアの膜透過性亢進にも必須である。従って、(1)VDACの機能を調節する物質を探索し、アポトーシス制御を介した治療薬を開発する、(2)また、VDACとヘキソキナーゼの結合を阻害し癌細胞のエネルギー代謝を抑制することによる新たな癌治療法を開発する、ことを目的とした。(1)VDAC調節物質の同定(A)ペプチド基材からの創薬-VDACを閉鎖するBH4ペプチドに細胞内移行配列(HIV-Tat領域の9アミノ酸)を付加したTat-BH4ペプチドーこのペプチドはVDAC機能を抑制し、(1)培養細胞に添加するとアポトーシス抑制作用を示した、(2)マウスの個体レベルにおいても、放射線誘導性小腸障害、炎症性腸疾患、虚血性心疾患、劇症肝炎に対し強い抵抗性を示した。(B)抗生物質のスクリーニング-土壌菌二次代謝物より、アポトーシス促進物質の同定に成功した。単離ミトコンドリアを用いた実験において、本物質はBcl-2とVDACの相互作用を阻害することにより、Bcl-2の抗アポトーシス機能を中和していることが推測された。確かに、細胞においてはBcl-2を発現している細胞においてのみ、アポトーシス促進活性を有していた。(C)低分子化合物のスクリーニング-また同様に、低分子化合物のライブラリーからミトコンドリア膜透過性を安定化する化合物を探索した。その結果、複数の低分子化合物を見いだした。これらの化合物は細胞レベルの実験において、確かにアポトーシスに対する影響を発揮した。現在、個体レベルでの効果を検討中である。(2)VDACとヘキソキナーゼの結合を阻害する物質の同定-(1)と同様の方法で探索し、いくつかの候補は得られているが、現在のところ最終確認は得られていない。
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