研究課題
基盤研究(B)
ヘムを一酸化炭素(CO)、鉄およびビリベルジンに分解するヘムオキシゲナーゼ(HO)は多彩な生物活性を有していることが知られているが、HOアイソザイム固有の生理活性の発現とその調節機構、COにより制御される標的分子の検索、さらに生体内で産生される他のガス分子との相互作用について未だその全貌が解明されていない。本研究課題では、HOアイソザイム発現とCOなどの反応生成物を介した生物作用発現との関係を明確に議論できる実験系を確立し、本酵素活性の生体制御における病態生理学的意義について解析することを目的としてきた。この目的遂行のために、既に報告のあるHO遺伝子欠損で認められる繁殖不全を回避できるOre-LoxPシステムに基づいた新しいコンディショナルノックアウトマウスの作成に着手し、現在までに目的とした相同組換えを起こしたES細胞を用いてキメラマウスの作成に至っている。次に、COにより特異的に作動する新規細胞内レセプタの検索を行うために、COにより惹起される細胞内代謝変動をCE-MSを用いて解析した。その結果、アセトアミノフェン投与による肝臓内CO産生増加に伴い、肝臓内メチオニンの増加とS-アデノシルメチオニンおよびシステインからグルタチオンやタウリンに至る代謝経路の抑制が認められた。この結果より、メチオニンからシステイン合成に至る含硫アミノ酸代謝経路に存在するcystathionine β-synthase(CBS)がCOの新しい細胞内標的分子であることが明らかになってきた。また、CBS精製蛋白を用いてCOによる酵素活性阻害様式を解析した結果、数mMのCOによりCBS活性阻害が認められるがこれはヘムの2つの軸配位子のうちシステイン残基がCOと置換することで生じることが明らかになった。さらに我々はCOと別の内因性ガス状メディエータである一酸化窒素(NO)と生体内における相互作用について解析した結果、網膜組織内において両者の既知標的分子である可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性を局所で産生されるCOとNOが協調して制御しており、このCOによるsGCの活性制御は局所のNO濃度に強く依存していることが明らかになった。本研究期間でHO-CO系を介した新たな生物活性を見出すことが出来たが、今後我々が取り組んでいる新規遺伝子改変動物の利用により更なるHOの生物学的意義の解明を行う必要があると考えている。
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