研究概要 |
肝再生時におけるoval cellの動態を解析した。Oval cellは、成長因子のautocrineにより、自己増殖することが知られている。このときに、oval cellから何らかの因子が産生され、周囲肝細胞は、apoptosisを促進するFas、Fas-L、Baxが発現して、apoptosisに陥る。しかし、oval cell自身は、Fas、Fas-L、Baxの発現増強を認めず、反対にapoptosisを抑制するNF-kBの発現亢進をみた。肝再生時に肝幹細胞は、このようにapoptosis機能を制御しながら肝再生を果たすことを明らかにした(J Gastroenterol Hepatol 19(8)1866-872,2004)。 肝発癌における、肝幹細胞の異常、それに伴うシグナル伝達物質、転写制御蛋白の役割と異常をラット実験モデルで解析した。インターフェロン投与により肝癌発生の抑制の機序をovai cell発生実験に用いるのと同じラット実験手法を使って発癌物質diethylnitrosamine (DEN)を投与することにより、明らかにした(Carcinogenesis 25(3):389-397,2004)。インターフェロン投与ラット発癌群においては、そのpreneoplastic fociが減少し、preneoplastic fociの構成細胞では、p53発現には、変化がなかったが、cyclin-kinase inhibitorであるp21の発現が亢進していることを明らかにした。インターフェロン投与によりpreneoplastic ceilがp21発現亢進することにより増殖を抑制していることを明らかにした。私たちは、この実験系によって、インターフェロンの肝発癌への影響は、発癌抑制というよりは、発癌の進展過程を顕著に遅らせていることを明らかにした。 肝臓、膵臓いずれも原始腸管から発生し、あるところまでは、共通の分化因子によって発生が制御されている。肝臓再生技術と、膵臓再生の技術は、表裏一体となっている。実際に肝臓分化に関わる転写制御因子HNF(肝細胞核因子、hepatocyte nuclear factor)、HNF-1α(第12染色体)、HNF-1β、HNF-4α(第20染色体)が膵臓ラ氏島のベータ細胞の分化機能にも関係し、糖尿病発生に関わっている。細胞周期を負に制御する_p27^<Kip1>というサイクリン依存性キナーゼ阻害因子が、糖尿病の発症に関係する膵β細胞(インスリン分泌細胞)の機能不全に大きく関与していることを報告した(Nature Medicine 11(2):175-182,2005)。肝臓の分化、膵臓の分化に関わる組織幹因子の分化機序を明らかにし、肝臓再生や膵臓疾患の分子標的治療に応用することを今後の目標とする。
|