研究概要 |
本研究は、マイクロサテライト不安定性消化管癌並びにそれらの前癌性病変臨床検体を用いて、1)テロメア維持機構、2)細胞不死化におけるDNAミスマッチ修復系不活化標的遺伝子変異を通じたアポトーシス逸脱機構の寄与、3)これら病理形態学的発癌過程における細胞不死化成立時期の解析を行い、消化管癌の細胞不死化機構におけるDNAミスマッチ修復系不活化の関与を分子病理学的に明らかにすることを目的とした。研究期間内に得られた成果は以下の如くである。 なお、検索した胃および大腸癌は、マイクロサテライト解析とp53免疫組織化学によりmutator-type、マイクロサテライト不安定性腫瘍;suppressor/p53-type、強いp53蓄積あるいはD17S250(p53 locus)にヘテロ接合性喪失を示すマイクロサテライト安定性腫瘍;unclassified、suppressor/p53-type以外のマイクロサテライト安定性腫瘍の三者に亜分類し解析した。 1.マイクロサテライト不安定性腫瘍を多く含む胃および大腸の粘液癌を分子病理学的に解析し、胃粘液癌ではmutator-type腫瘍はその他に比較して増殖能が低く、予後良好の傾向が得られ、有意に小腸刷子縁マーカーCD10陽性頻度が低かった。大腸粘液癌では、mutator-type腫瘍は有意に胃型粘液HGM陽性で、右側結腸に集積していたが、suppressor/p53-type腫瘍はその他に比較して有意に静脈侵襲,リンパ節転移を伴い,高臨床病期のものが多かった。以上から消化管粘液癌は分子病理学的に意義のある亜分類が可能であることが示された。 2.大腸癌手術検体208例についてテロメラーゼ触媒サブユニットhTERTのin situ hybridizationを施行すると、hTERTの高発現はmutator-typeで32%、suppressor/p53-typeで69%、unclassifiedで55%とmutator-typeで有意にその頻度が低く、マイクロサテライト不安定性大腸癌でテロメラーゼの活性化がまれで、テロメラーゼ非依存性の細胞不死化が成立している可能性が示唆された。 3.本研究では、テロメア長の定量化を通常パラフィン包埋病理検体で行うことをその課題の一つとしていたが、3年間の検討によりそのシステムを確立した。
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