研究概要 |
近年、生理的な血管新生、または病的な血管新生に種々の血管新生因子が関与することが明らかにされつつある。しかしこれまでの研究の主体は、単一遺伝子の過剰発現系やノックアウト系での解析であり、血管新生プロセスの時間軸に対し、ダイナミックに発現が変化する複数の内因性血管新生分子群を高次的に解析するという研究は皆無であった。 我々は本研究において、独自の高効率遺伝子ベクターである組換えセンダイウイルスベクター(SeV)(Nature Biotechnol 2000,FASEB J 2001,J Immunol 2002,Circ Res 2002,Gene Ther 2003など)を駆使することにより、以下の知見を得た。 (1)「生理的・機能的」血管新生には、そのプロセスごとに複数の因子がバランスよく同期してタイミングよく発現することが重要であり、このバランスと時期が崩れると「病的血管新生」あるいは「血流回復効果の破綻」に至ること。 (2)一方で、1つの血管新生因子が血管新生プロセスに関与する複数の因子の協調作用を誘導する場合があること、つまり、血管新生の作用機構には階層性が存在すること。 (3)血管新生過程には、周皮細胞、平滑筋細胞、さらに線維芽細胞の存在が必須であること。 現時点でこれらの用件を単独で満たし、効率のよい機能的血管新生を誘導できるのはFGF-2のみであることを見出し(Circ Res 2002、2報)、Sev-FGF2による重症虚血下肢に対する遺伝子治療を提案、学内倫理委員会の承認の後、厚生労働省にて審議中であり、2004年度中の実施に向けた準備中である。既に患者さん治療室の設置、ならびに治療用GMPグレードベクターの生産は終了、新GCP準拠試験の開始を待つばかりの状態である。 また同様のコンセプトの追求により、悪性腫瘍の特性に関わらず一元的に腫瘍血管を破綻させる画期的な分子標的を見出し(Circ Res 2004,in press)、低分子製剤と遺伝子治療法の開発を進めている。 今後は本研究で得られた成果をさらに発展させ、生体内でのダイナミックな血管の再生メカニズムの本態に迫りたい。
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