我々は消化管筋層に発生したストローマ細胞腫瘍(GIST)のほとんどにc-kit遺伝子が発現し、そのc-kit遺伝子には高率に機能獲得性突然変異が見られることを報告した。また、GIST症例の収集過程で消化管にGISTの多発する家系を3家系見つけ、このような家系の患者にはその原因と考えられるgermlineでのc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異がみられることを明らかにした。多発性GIST患者には、肉眼的には正常に見える消化管にカハールの介在細胞(ICC)のびまん性増殖がみられることも見つけた。最近我々は、消化管間葉系腫瘍が多発する家系を新たに見つけた。まず、この家系にみられる多発性間葉系腫瘍がGISTであることを確認し、次にgermlineにc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異があるかどうか調べたところ、これまでに報告されていないキナーゼドメインII領域の突然変異であることがわかった。この突然変異も機能獲得性の変化であることがわかり、突然変異を持つ患者には多発性GISTと共にICCのびまん性過形成もみられた。患者のほとんどが明らかな食道の狭窄性病変を伴わないにも拘わらずアカラシア様の嚥下困難を示した。食道内圧検査を行うと、アカラシア様の同期性収縮がみられ、超音波内視鏡で観察すると、胃食道接合部の筋間経叢に一致する部分に肥厚像がみられたことから、嚥下困難の原因は胃食道接合部におけるICCの過形成に伴う食道運動異常と考えられた。この症例を含め、多発性GIST患者に見られるICCのびまん性増殖巣のクロナリティーについても調べた。多発性GISTはmonoclonalな腫瘍であったが、ICCのびまん性増殖病変はpolyclonalな細胞から成ることがわかり、ICCの過形成であると考えられた。
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