我々はBALB/cマウスに特異的なウレタン誘発肺発癌耐性遺伝子であるPart2のポジショナルクローニングを目指している。昨年度までに、Part2をの有力な候補遺伝子として、極めてfidelityの低い損傷乗り越え型DNA polymeraseであるPolιの遺伝子を提案した。様々なマウス純系のPolιcDNAの塩基配列をsingle nucleotide polymorphismやアミノ酸配列の観点から比較すると、BALB/cのPolι遺伝子は独特の性質を有する。よって、現在我々は、BALB/cのPolιが他系統のそれに比べ活性が低いか、或いは、質的にfidelityが高いなどの原因により、ウレタンによるイニシエーションの際に癌関連遺伝子の変異頻度を下げ、腫瘍発生を減じているのではないかと推測している。 興味深いことに、極最近、129系統マウスがPolι遺伝子にnonsense mutationを持つことが、アメリカのグループによって明らかにされた。今年度は、この129マウスにおけるPolι欠損が、ウレタン誘発肺発がん感受性に及ぼす影響を連鎖解析により検討した。 ウレタン誘発肺発がんに高い感受性を示すA/JマウスならびにPolιを欠損する129X1/SvJマウス(129と略す)を使用し、雄の(A/Jx129)F_1xA/J backcrossマウスを約60匹作製した。全てのbackcrossマウスに、生後6週令で1mg/g bwのウレタンを腹腔内投与した。ウレタン投与後120日で全マウスを屠殺し、発生した肺腫瘍の数を各々のマウスについて記録した。その結果、129の変異Polιアレルを有するbackcrossマウスは、正常アレルのみを有するbackcrossマウスに比べて、平均肺腫瘍数が約60%増加していることが明らかになった。よって、Polιが肺腫瘍発生の防御機構に何らかの貢献をしているという我々の仮説の妥当性はさらに高まった。
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