ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)はヒトリンパ球を高率に不死化する。不死化にはウイルスがコードするTaxが必要であるが、Taxは種々の遺伝子の発現を制御する機能を持つので、この働きにより転写活性化あるいは抑制される遺伝子が細胞の不死化に関係していると考えられる。Tax発現により不死化した細胞においては細胞周期に関わるサイクリン阻害因子のうちp21の発現が亢進している。このp21発現亢進と細胞の不死化・トランスフォメーションとの関連を明らかにする目的でp21の高発現の意味を解析した。既にTaxはラット1細胞をトランスフォームすることが知られているが、本細胞ではp21の発現が最初から無い。この細胞にp21を人工的に発現させると細胞のトランスフォーム能がTax単独の時よりも亢進した。また、p21を発現しているTaxでトランスフォームした細胞ではアポトーシスに対して抵抗性を示した。次にHTLV-1感染により不死化した細胞におけるp21の機能を調べた。p21mRNAを標的にしたsiRNAで細胞を処理するとp21の発現が抑制された。この状態の時に細胞をアクチノマイシンD処理すると、アポトーシスが促進された。一方、この細胞にp21発現を促進させると細胞の増殖が抑制された。以上のことからp21はTaxでトランスフォーム下細胞に対してはトランスフォーム能を挙げる働きがあると共にアポトーシスを抑制する働きがあること、また、HTLV-1で不死化した細胞においてはp21の発現が高いにも関わらず細胞の増殖は正常に起こるが、それ以上のp21を発現させると速やかに増殖抑制がかかる一方、p21の量を低下させるとアポトーシスに感受性を示すようになり、このことはHTLV-1感染により不死化した細胞においてp21が細胞の増殖と死を巧妙に制御している可能性が示唆された。
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