AIDSにおけるHIV-1感染の主要なコレセプターであるCCR5の生理機能は、細胞走化性以外では詳細には明らかにされていない。しかし我々はこれまでに、ヒトCCR5阻害剤:TAK-779が固相化したCD3刺激によるmemory CD8+T細胞の増殖を抑制したことから、CCR5がT細胞受容体(TCR)刺激の副刺激としての機能も有することを示してきた。そこでCCR5の局在を調べると、TCR刺激後にCCR5が免疫シナプスに集積することを見い出した。次にCCR5の活性化状態を調べるために、RANTESのTCR刺激後における動態を解析した。CD3/CD28抗体をコートしたビーズによりヒトCD8+T細胞を刺激しRANTES vesiclesの移動を共焦点レーザー顕微鏡により観察すると、15分後にRANTESがビーズ接触面に集積した。またBRET(Bioluminescence Resonance Energy Transfer)法により、b-arrestinがCCR5に近接することを見い出した。このことからRANTESによりCCR5が活性化されたことが示された。次にTCR刺激によるインテグリンLFA-1の活性化の過程で、CCR5に依存する相の存在することをCCR5阻害剤:TAK-779を用いることにより示した。以上よりヒトmemory CD8+T細胞では、免疫シナプスを構成するTCRの活性化からLFA-1の(inside-outの)活性化までの間に少なくとも一部はCCR5の活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された。また我々が作成したCCR5欠損マウスでアロ反応が抑制されたことなどは最近報告されたヒト腎移植におけるCCR5delta32をもつレシピエントの長期予後の改善の理論的根拠の1つを与えるものである。またAIDS治療を目的として開発されたヒトCCR5阻害剤の副作用の可能性とそれを克服するための研究の方向性を示すことになる。
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