細胞の高次機能は細胞骨格の再構築により巧妙に制御されている。このことは免疫系においても例外ではない。しかしながら、細胞骨格制御に関するこれまでの研究の多くは、線維芽細胞など免疫系以外の細胞を対象としたものであり、外来異物やアポトーシス細胞の貪食、リンパ球やマクロファージの遊走、免疫シナプス形成など免疫系独自に進化したさまざまな細胞高次機能において細胞骨格の再構築が重要な意味を持つであろうと考えられるにも関わらず、その分子レベルでの理解は進んでいない。 CDMファミリーは線虫から哺乳類に至るまで保存された分子群で、低分子量GTP結合蛋白質の上流で機能することで細胞骨格の制御に関わっている。我々は、リンパ球特異的に発現するCDMファミリー分子DOCK2を同定し、ノックアウトマウスを作製することで、この分子がケモカイン受容体やT細胞抗原受容体の下流で機能し、Racの活性化を介してリンパ球遊走及び免疫シナプス形成を制御することを明らかにした。また、DOCK2によるRac活性化にELMO1との介合が重要であることを見い出し、この相互作用がリンパ球機能を人為的に制御する上で格好の分子標的となる可能性を示した。 多くの受容体やリガンドが同定された今日、受容体刺激に伴うシグナルの'量'あるいは'質'が細胞骨格の再構築によりどのように制御されているかを理解し、その機能発現との関連性を解析することは今後の免疫学の大きなテーマになると考えられる。本研究成果はこの分野における突破口になるのではと期待している。
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