これまでにPI3Kノックアウトマウスにおいて消化管肥満細胞が欠損することを見いだしたが、本研究では、なぜPI3Kノックアウトマウスにおいて消化管肥満細胞のみが欠損するのか、消化管肥満細胞がどのように消化管寄生虫感染制御に機能するかを明らかにすることを目指した。肥満細胞分化に重要であることがすでに知られるc-kit受容体の下流のシグナルの解析から、P13Kが欠損することによってJNK経路の活性化が著しく低下することが明らかになった。PI3Kの欠損がc-kit受容体の下流のシグナルを減弱させることで肥満細胞の分化の異常をもたらすということが考えられた。しかし、消化管の肥満細胞のみが選択的に欠損する理由はこれだけでは説明できない。そこで、消化管感染寄生虫である糞線虫、Strongyloides venezuelensis感染における経過を観察した。その結果、PI3Kノックアウトマウスにおいても少ないながら腸管に肥満細胞の動員が観察された。野生型の骨髄からIL-3によって誘導した培養肥満細胞を移植してS.venezuelensisに対する抵抗性の回復を検討したところ、通常の培養肥満細胞では抵抗性は回復せず、移植1日前にTh2サイトカインであるIL-4とIL-10で処理した場合にのみ抵抗性が回復した。この結果はTh2反応の重要性を示唆する。そこでさらに所属リンパ節由来のT細胞による抗原特異的なサイトカイン生産を検討したところ、PI3KノックアウトマウスにおいてはTh2サイトカインの生産が優位に低下すること、さらに野生型で見られるIL-3の生産がほとんど見られないことが明らかになった。これらの結果から、IL-3やTh2サイトカインの誘導不全が消化管肥満細胞の分化異常の原因である可能性が示唆された。現在、Th1/Th2反応の誘導におけるPI3Kの機能を解析中である。
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