研究概要 |
目的:遺伝性腫瘍に関する遺伝子検査の結果開示が与える短期的および長期的な心理的衝撃を明らかにするとともに、心理的衝撃に関連する要因を同定すること。方法:遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)の遺伝子検査を提示された20歳以上の者を連続的にサンプリングし、本研究の目的を説明後、文書による同意を得た。適格症例に対して、初回遺伝カウンセリング後(ベースライン)と遺伝子検査結果開示1ヵ月後、1年後の時点で自己記入式質問紙法ならびに精神科診断面接を施行し、心理的衝撃(大うつ病、小うつ病、Acute Stress Disorder : ASD、Posttraumatic Stress Disorder : PTSD)の有病率を検討した。また、開示1ヵ月後の心理的衝撃と関連する要因を評価した。結果:ベースライン調査を行った65名中、45名(69%)が1年後調査を完遂した。1ヵ月後および1年後調査時ともに大うつ病、ASD、PTSDの基準を満たしたものはいなかったが、1ヵ月後調査時において3名が小うつ病、2名がPTSD症状の基準を、1年後調査時において4名が小うつ病、3名がPTSD症状の基準を満たした。検査結果による心理的衝撃の違いはみられなかった。1ヵ月後の心理的衝撃には検査前に施行した言語性記憶機能が有意に関連していた。結論:遺伝子検査の結果開示によって、短期的および長期的にも重篤な精神的負担は生じない。しかし、見過ごしてはいけない軽度の精神的負担を生じているものもおり、遺伝子検査の実施とその結果を開示する場合には、心理的反応に注意を払う必要があることが示唆された。また、関連要因を考慮に入れた上で、心理的衝撃に対するハイリスク者へのフォローアップ体制について再検討することにより,遺伝情報開示後の心理的衝撃へのリスクを最小限に抑えることが可能になると思われた。
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