研究概要 |
今回の研究によって,大きくわけて3つの研究成果を得た.それぞれについて記載する. 1.膵癌におけるHIF-1αとdominant negative HIF-1αの増殖抑制効果 膵癌細胞株の大部分がHIF-1αを恒常的に発現していることをすでに明らかにしている(Cancer Res.,2001)が,今回の研究では,まずHIF-1αの機能を阻害するdominant negative HIF-1α導入株を作製した。その結果,導入株では低栄養誘導アポトーシスに対する感受性が亢進し,生体内での増殖能を喪失していた。生体内での造腫瘍性の喪失の原因を明らかにするために腫瘍組織における血管新生とグルコース代謝について検討した。その結果血管新生には差を認めなかったが,グルコース輸送蛋白であるGlut-1の発現低下とFDG-PETを用いた検討でグルコース取り込みの低下を認めた。この結果は,膵癌におけるHIF-1αの重要性を再確認するとともに,dominant negative HIF-1αの治療における有用性を示唆した. 2.低酸素環境下での転移能亢進 低酸素下で発現亢進する遺伝子をDNA microarrayをもちいて検索したところ,phosphohexose isomeraseという解糖系酵素の発現亢進が確認された。phosphohexose isomeraseは実は,autocrine motility factorという低促進因子と同一であることが知られている。したがって今回の研究成果は,低酸素環境が転移を促進している可能性を示唆する。 3.低酸素下で発現亢進する新しい血管新生因子とその阻害剤の治療効果 同様にDNA microarrayをもちいて新しい血管新生因子adrenomedullinを見出した。低酸素環境下でさまざまの癌細胞株で発現亢進すること,adrenomedullin antagonistの投与によって腫瘍が退縮することを見出した。
|