[背景]胎生期膵においてNotchが高発現していること、Notch ligand Dll1、Notch signalingのmediator RBP-Jκおよび標的遺伝子HES1のノックアウトマウスにおいて膵の形成異常が起こることから膵発生過程にNotchが重要な役割を果たしていることが示されている。一方truncated-type Notchがtransforming activityをもつことが種々の癌において知られている。また、wild-type NotchがRas signalingの下流でmalignant phenotypeの維持に関与していることが示され、Notchが癌治療のターゲットとなりうる可能性も示唆されている。 [目的] 1.成体膵においてNotchが膵幹細胞/前駆細胞のマーカーとなりうるか検討すること。 2.膵癌におけるNotchの役割を検討すること。 [結果] 1.ヒト膵癌細胞株BxPC3、MIAPaca2、Panc1、AsPC1を用いた検討 1)Notchの活性化を抑制することが知られているγsecretase inhibitorであるDAPT処理によって4系統全ての癌細胞株の増殖が有意に抑制された。抑制の程度はBxPC3において特に顕著だった。 2)DAPT処理により標的遺伝子HES1の発現が抑制されることを確認した。 3)BxPC3において、Notch signalingの抑制により、膵幹細胞/前駆細胞のマーカーとして知られているNestinの発現が抑制され、逆にCK-19およびE-cadherinの発現が増強した。 4)Ras signalingおよびWnt pathwayのターゲットと考えられているhomeobox geneであるMSX2の発現が、Notch signalingの抑制によって低下した。 2.マウス膵癌モデルを用いた検討 Rivera JAらの方法を一部改変して、chemical carcinogenであるdimethylbenzanthracene(DMBA)を膵局所に注入すると、2週後にtubular complex類似の腺管構造の増生を認め、この上皮細胞にNotch1の発現を認めた。 [考察] 1.Notchは膵癌細胞の増殖を促進するとともに未分化状態の維持に関与していることが示唆される。 2.マウス膵癌モデルにおけるNotch1陽性細胞が、膵再生とその異常および癌化に関与している可能性が考えられ、現在この細胞の分離培養を検討中である。
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