【背景】 Notch signalingは種々の臓器の発生過程において重要な役割を果たしていることが知られているが、最近種々の癌においてもNotch signalingの活性化が報告されている。しかし、成体膵における膵管上皮の再生機構や癌化における役割についてはいまだ大部分が不明のままである。 【目的】 Notch signalingの成体膵の再生機構および膵発癌における役割を明らかにすること。 【結果】 1)ヒト膵癌組織において、Notch1はPanIN-1Aの異型度の弱い膵管上皮から浸潤癌に至るまで高発現していた。正常膵管上皮においてはごく一部の上皮細胞に弱い発現を認めるのみだった。また、非腫瘍部において、tubular complexに発現の亢進を認めた。 2)膵癌細胞には、膵前駆細胞のマーカーであるNestinの発現が認められた。 3)膵癌細胞をretinoic acidの存在下で培養すると、増殖が抑制され、Notch1の発現が低下した。また、Nestinの発現も同様に低下し、逆に分化した膵管上皮細胞のマーカーである、carbonic anhydrase IIおよびcytokeratin 19の発現が誘導された。 4)Notch signalingの抑制によっても同様の結果が得られた。 5)Notch signalingの抑制により、MSX2の発現が抑制された。 6)膵癌細胞にMSX2を高発現させると、増殖が促進され、EMTが誘導された。 【考察】 Notch signalingが膵発癌過程において、細胞の分化度を調節していることが示された。膵癌の悪性度の規定には一部MSX2 signalingとのクロストークが存在する可能性が示唆された。
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