研究概要 |
E1遺伝子の一部に変異を有するアデノウイルスは,癌細胞特異的に増殖,腫瘍融解を惹起し,最近の欧米での臨床治験でも注目すべき成績を示している。胆嚢癌は,多くは進行期に発見され根治の難しい予後不良な癌であるが,遺伝子治療の研究は乏しい。本研究では胆嚢癌に対する遺伝子治療の研究として,二種のE1変異アデノウイルス(E1B-55kD欠損ウイルスおよびE1A, E1B二重変異ウイルス)の有効性を実験的に解析し,さらにその応用を探る。本年(14年)度は,E1変異ウイルスの「in vitroにおける胆嚢癌細胞株に対する有効性と正常細胞に対する安全性」および「in vivoでの胆嚢癌に対する抗腫瘍効果」を検討した。その結果,(1)二種のE1変異ウイルスが,胆嚢癌細胞内において,野生型ウイルスと同程度(100-1000倍)に増殖し,癌細胞を融解壊死すること,(2)一方,各種正常細胞(初代培養肝細胞,腸上皮細胞,血管内皮細胞,線維芽細胞)内では,その増殖および細胞障害性が著しく抑制され,なかでもE1A, E1B二重変異ウイルスはより安全であることが判明した。また,(3)E1変異ウイルスは,胆嚢癌細胞のヌードマウス皮下移植モデルでは,腫瘍内注入により腫瘍の増大を有意に抑制し,腹膜播種モデルでは,転移巣内で増殖し,マウス生存期間を有意に延長し,in vivoでも抗腫瘍効果を発揮した。現在,その抗腫瘍効果をさらに増強すべく,抗癌剤との併用効果を検討中であり,今後,自殺遺伝子との併用による複合増殖型遺伝子治療へと応用,発展させていく計画である。
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