研究概要 |
E1遺伝子に変異を持つアデノウイルスは,癌細胞特異的に増殖,腫瘍を融解し,最近の欧米での臨床治験でも注目すべき成績を示している。胆嚢癌は,多くは進行期に発見され根治の難しい予後不良な癌であるが,遺伝子治療の研究は乏しい。本研究では胆嚢癌に対するE1変異アデノウイルスの有効性とその遺伝子治療への応用を実験的に解析した。平成14年度は,E1変異ウイルスが胆嚢癌細胞内で選択的に増殖し癌細胞を融解壊死する一方,正常細胞内では増殖と細胞障害性が顕著に抑制されること,胆嚢癌のヌードマウス皮下移植モデルでは腫瘍の増大を抑制し,腹膜播種モデルでも転移巣内で増殖,生存期間を延長することが判明した。平成15年度は,E1変異ウイルスと抗癌剤5-FUとの併用が腹膜播種マウスの生存期間をさらに延長することを確認した。本年度(16年度)は,抗癌剤5-FUを代謝活性化するUPRTの遺伝子を搭載したE1変異ウイルスの抗腫瘍効果を検討した。その結果,UPRT遺伝子搭載E1変異ウイルスは,癌細胞特異的にUPRTを発現し,従来のUPRT発現非増殖型ウイルスに比し,in vitro, in vivoにて胆道癌の5-FU感受性を著明に増強することが判明した。癌の化学療法の最大の障壁である癌細胞の抗癌剤耐性を遺伝子治療により克服する「遺伝子化学療法」の基盤ウイルスとして有効と考えられる。以上,本研究より癌特異的増殖型E1変異アデノウイルスを用いた胆嚢癌の遺伝子治療の実験的有効性が示された。
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